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ぞうのババール

ジャン・ド・ブリュノフ さく
                    やがわ すみこ やく
                           評論社
                        1512円(税込)

1899年にフランスで生まれた作者ブリュノフは、息子たちのために「ババール」の物語を六作書きました。そのシリーズのはじめ、主人公の子どものころを語った一冊をご紹介します。

吉田真澄

この作品の善さなら様々に語られているけれど、もしも私が尋ねられたなら、とんとん拍子に幸せを手に入れ成長していく主人公の姿そのものだと応えるでしょう。目の前で母親が銃に撃たれるという、無情な悲劇から始まった物語は、しかし、その後、狩人から逃れるためにひとりきりで生地を飛び出した仔ゾウの行く手を明るく照らすように進行します。ゾウの気持ちなら何でもわかる(!)お金持ちなおばあさんと出会い贅沢に町暮らしを満喫したあとは、王さまとなって再び故郷に迎えられる主人公ババール。人生が好転していくさまは、ざっくりと粗削りであるが故に、かえって読者を得心させます。緻密さと縁の無いあけっぴろげなストーリーは、エピソードを積み上げながら物語世界を構築していく英国のそれとは異なりますが、メリハリを効かせるようにユーモアを点在し全体をおおらかにまとめています。

 

ありえないような出来事の数々を魅力的に支えるのは、もちろん絵です。余白を大きくとった画面にキュートな登場人物たちが、その個性を競うように描き分けられます。真っ赤なオープンカーや、フレッシュグリーンのスーツといった洒落た小道具も目を引きます。およそ80年前に出版された作品ですから、当然クラシカルな風格を備えていますが、一度目にすれば憶えてしまうシンプルでのほほんとしたキャラクタ―たちは、年月を経ていっそうの生彩を放ちます。どんな本の登場人物も比較対象にはなりません。平易に描かれたように見えるのに、その独自性は圧倒的です。

 

努力や忍耐など何処吹く風の飄然たる主人公は、ただ堂々と心のままに生きています。それを意図しなくても、私たちの道はいつだって開けるし、波乱に満ちた人生は充分に愉快だと幼い読者をきっと軽やかに楽しませるはずです。物語が終わるころには、冒頭で描かれた母親の死の場面さえ失念してしまうほどに、ああ、おもしろかった、おもしろかったね、と心足りて本を閉じるでしょう。その快闊な思い切りの良さも、フランス生まれのこの絵本が世代を越えて支持され続ける理由のひとつに違いありません。

 

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