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こんにちは、いたずらっ子エ―ミル


              アストリッド・リンドグレーン 作
                    ビヨルン・ベリイ 絵
                       石井登志子 訳
                          徳間書店
                       1620円(税込)

岩波せかいのどうわシリーズや少年文庫ではお馴染みだった「エ―ミル」の絵本版です。エ―ミルのまっぐな好奇心が向けられる先には、いつも騒動が待ち受けています。

吉田 真澄

子どもたちが待ちに待っていた「エ―ミル」の絵本です。いたずらっ子「エ―ミル」が主人公のお話はこれまでも何冊か出版されていましたが、大人の手助けがなければ小さな子どもたちにはなかなか楽しめない体裁の本でした。別の本にあった既知のエピソードでも、いきいきと跳ねまわる主人公の挿絵付きのこの本で再読すれば、まるで賑やかな声まで聞こえてきそうなボリュームで存分に楽しめます。

 

スモ―ランド地方(スウェーデン南東部)レンネべリア村のカットフルト農場で暮らすエ―ミルの家族と動物たちが、冒頭の見開きで丁寧に紹介されたあと、いよいよエ―ミル少年のいたずらの数々がこれでもかと畳みかけるように語られていきます。なにしろ、エ―ミルは「おりこうさんで、おなじいたずらは 二どと しませんでした」が、「かわりに、いつでも あたらしいいたずらを かんがえつく」のですから。妹のイ―ダを旗の代わりに高い竿の先に吊るしたり、担任の先生に熱烈なキスをしたり、市長さんのパーティー会場に馬で乗り付けテーブルをめちゃめちゃにしたり、ページをめくるたびに、驚く大人をよそに、エ―ミルは、もりもりといたずらをしかけます。「いたずら」というより、彼は、興味があることにまっしぐらなだけなんです。そして、すぐに夢中になってしまうというわけです。彼のそんな一途さは、むろん周囲を巻き込み、時には大騒動に発展しますから、お父さんからお灸を据えらることだって日常です。暗い木工小屋で、反省のしるしとして「木のおじさん人形」を彫らされるエ―ミル。ふてくされ口をへの字に曲げて、ひたすら人形を彫り続ける彼を描いたページは、この物語の中で、唯一の静止画かもしれません。「スプーンおばさん」シリーズの挿絵画家として知られたベリイが描く登場人物たちは、大人も子どもも生気に溢れ、ぴんしゃんしています。笑うときはのけぞって大声で遠慮なく笑い、腹が立てばきちんと憤りを露わにします。駆け巡るような時間の流れを描きつつ、その山場にきちんとフォーカスしながら読者を満足させてくれる絵です。

 

損か得かを考えたり、生半可なところで自分をごまかしたりしないで、主人公は自分の手足を余すところなく使っていたずらに邁進します。もちろん、他のリンドグレーンの作品と同様に、両親が彼に向ける惜しみない愛情と、周囲の大人の温かなサポートが彼の行動の全てを支えていますが、その贅沢な子ども時代を、誰におもねることなくのびのびと、おしおきなんかものともせずに、主人公は全身で満喫しているのです。お話の結びの一節は、世のいたずらっ子たち(とそのお母さんお父さんたち)にとって希望の言葉のように響くかもしれません。物語はここでいったん閉じられても、大人になるための冒険は続いていく―そして、未来は明るいのだ―という立体的で前向きな終わり方を大変好ましく感じました。

   

   けれども、エ―ミルは、大きくなるにつれて、だんだん  すてきな青年に なり、

   レンネベリアじゅうで いちばん りっぱな大人に なりました。

   あんなに いたずらだった子が、りっぱな大人に なれたなんて、なんだか うれしいですね。

 

 

 

 

 

 

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