Return to site

『おどるねこ ネリー』

                  ナタリー・バビット さく
                     たなか まや やく
                           評論社
                           品切れ
 

 原題は“NELLIE A cat on Her Own”。ナタリー・バビットといえば、臆病な主人公の少女と不老不死の少年の交流を語った『時をさまようタック』を思い出す方も多いでしょう。主人公が“意思”を獲得するという意味で、この短い作品と通じるところもあります。お話と絵、両方をバビットが手掛けた一冊です。

吉田 真澄

 持ち主のおばあさんと穏やかに暮していたあやつり人形の猫ネリー。しかし、おばあさんが亡くなると、「おばあさんのもの」だった自分の行く末を決められず途方にくれてしまいます。ほんものの猫トムにいさんは、「それなら、きみはきみだけのものになればいい。ぼくみたいに。」と、ネリーを誘いますが、それが何を意味するかわからないネリーはおろおろするばかり。しびれを切らしたトムにいさんは、ネリーの頭と手足についている糸をはずし、麦わら帽子の中に座らせ、その帽子ごとネリーを連れ出します。「ひろいひろい外の世界」へ。

 

 物語のクライマックスは、文字を拝した見開きで踊る猫たちを描いた場面でしょう。思い思いのスタイルでダンスに興じる猫たちは、色と毛並みも様々。大勢で踊っているのに、そこに音の気配は無く、月夜の静謐さが全体を統べています。猫は歩く際にも音をたてないのだと知っていても、この清閑さは神秘的で、つい見入ってしまいます。

 

 けれども、以前、この本を小学生の子どもたちと読んだとき、彼らが印象的な場面として挙げたのは、この山場の前後のページだったことに少々驚きました。ひとつ前のページは、トムにいさんがネリーの手を取り、はじめてネリーを立たせる場面、ひとつ後のページは、ネリーが野原を見渡す木のうろに棲家を構えた場面です。ふたつの場面に共通するのは、主人公の決意を描くページだということ。ネリーは、「あたらしい(持ち主になってくれる)おばあさん」を探すのではなく、ひとりで生きる道を選びます。とすれば、冒頭でネリーのあやつりの糸を外しながらトムにいさんが宣言した「これできみは自由の身だ。」の自由とは、限られた選択肢しか手にできなかった主人公が、誰にも邪魔されずに迷い、選び取ることにあったのだと思い至ります。

 

 お話の初めと終わり、その両方に、他には何もない余白を背景にネリーひとりが描かれます。初めは、あやつり人形として糸に吊られて、終わりには両手を伸ばしダンスする気儘な姿で。ちょうどこの二つの場面に橋をかけるようにこの物語はあったのだと私は感じます。少なくとも、「きみはきみだけのものになればいい」という言葉は、他者の行動にふいと依存してしまいそうになる私の心を突きました。短いお話の隙間に思いを巡らせるひと時も、書物が提ぐささやかな恵みのひとつです。

 

All Posts
×

Almost done…

We just sent you an email. Please click the link in the email to confirm your subscription!

OKSubscriptions powered by Strikingly