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『変身動物園

 カンガルーになった少女』

エリック・リンクレイター 作
                        神宮輝夫 訳
                           晶文社
                           品切れ

気づけば、もう11月も終わり。
今回、ご紹介する一風かわったファンタジーで「読書の秋」をしめくくってはいかがでしょうか。広くは知られていない物語ですが、きっと皆様の大事なコレクションに加えて頂けるものと確信しておすすめ致します。                                                                                     

(吉田 真澄)

 この本を夢中で読み続けている間、ふと頭に浮かんだファンタジーは二つ――『不思議の国のアリス』と『風にのってきたメアリー・ポピンズ』――です。大胆な展開で読者をあっと言わせる手法や、主人公の子どもたちの誠実さ、彼らをとりまく風がわりで旨味のある登場人物たち。加えて優れた作家の手によるファンタジーは、どの作品をとってみても、その空想世界への誘(いざな)い方が際立ってもいます。

 ももいろのめをした白ウサギの後を追って、穴にすべりこんだアリスも然り、コウモリがさを片手に東風にのって、空からまいおりてきたメアリー・ポピンズもまた然り。けれども、今回ご紹介する物語――そのファンタジーへの入り口――には、私も意表を衝かれ、驚かずにはいられなかったのです。

 主人公は、「いい子」にしていることって「とってもむずかしい」と真剣に悩む姉妹です。姉のダイナは「悪い子にならないように、どんなに努力してもちゃんと悪い子になってしまう」し、妹のドリンダは「自分ではいい子にしているつもりでも、おとなはほんとに悪い子だったっていうのね、だからよくわからない」と考えています。彼女たちの家庭教師、ミス・セレンディップは「知識こそ、この世でもっとも大切なもの」と信じている人物ですが、ある日姉妹は、このお堅い家庭教師にこんな言葉で応酬するのです。「知識より、もっとずっと大切なものがあります、先生……たべものです。」さあ、ファンタジーへの扉が開き始めました。なぜって、この後二人が食べたものときたら、ソーセージ、トマト、マーマレードをつけたパン、ローストビーフにスコッチブロス、平マメのスープ、チェリーパイ、トライフル……などなど、およそ50種類にもおよぶ、すさまじい数の料理で、あげくのはてに、とうとう二人は「風船のように」まんまるく太ってしまったのです。そう、確かに本には「風船のように」と書いてありましたが、その時の二人の様子は正に風船そのもの――ぽんぽんと弾みながらしか前に進めず、坂道は誰かにぐいとひと押ししてもらって転がりながら下りるんです――なのでした! 

 こうして私は、半ばひっぱりこまれるようなかたちで、この独創的なファンタジーの世界へのめりこんでいったのです。

 二人はその後、まんまるにふくれた自分たちの身体を、針でつついていじめた町の子どもたちに復しゅうするため、なんとカンガルーに変身します。(彼女たちの変身を助けたのは、謎の人物ミセス・グリンブルです。)「みんなをうーんとこわがらせるため」に、何か動物に変身しようと決めた姉妹が、なぜカンガルーを選んだのか……。その理由は「二、三日家を留守にするときには、歯ブラシときれいなハンカチくらい持っていきたいじゃないの」と考えたから――つまり、服を脱ぎ裸になって変身しなければならない二人にとって、カンガルーの「ポケット」は何より魅力的だったわけです。

 ここで私は、姉妹と出会うことにより、再び自由を手に入れることが叶ったゴールデン・ピューマ(ネコ科の食肉動物)について触れないわけにはいきません。この物語の中で唯一、過酷な運命を背負って登場する、美しい彼女(ピューマ)について――。「本当の友人には、感謝のことばなどいらない」と決然と言いきることのできるピューマは、その命をかけて、立ちはだかる危険から姉妹を守りぬきます。彼女の誇り高い生き方は、友情の絆とは斯くも強靱であるのだと、私を諭し、「自由」という言葉の重さをもかみしめることになったのでした。ナンセンス・ファンタジーと評されるこの物語は "The Wind on the Moon" という美しい響きをはなつ原題を持っていて、物語の要所を彩る幻想的な“月の夜”は、実に印象深く心に残ります。「ふつうの女の子のお手本みたいにしていたら、学べなかったことを、たくさん学んだと思う」美しい“月の夜”、無事家にたどりついた姉のダイナはこう語り、妹のドリンダがすかさずこんなふうにつけ足すのです――「それに、とってもおもしろかった」――。今、この本を読み終えた私も、この二人と全く同じ気持ちなのだから嬉しくなってしまいますよね。

2002年11月配信分を2017年11月に再掲

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