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『おもしろ荘のリサベット』

アストリッド・リンドグレーン 作
                       石井登志子 訳
                          岩波書店
                          品切れ中

『おもしろ荘の子どもたち』の中の一編ですが、主人公の姉妹と初めて出会う読者も充分に楽しめます。大人が考えもつかないことを平然とやり遂げる彼女たちを、きっと好きになってくれるでしょう。

吉田 真澄

 題名のとおり、主人公は「リサベット」なのでしょうが、彼女の姉「マディケン」の無敵な頼もしさが印象的です。妹のリサベットが急場に臨んだと知るや否や、「スズメバチが巣からとびたつようないきおいで、ドアからとびだして」いく勇ましい姉マディケン。けんかを売られればすぐに飛びつくし、その上、めっぽう強いのです。

 マディケンがおこると、しかもすぐにおこりだすのですが、自分でもなにをしているのか、よくわからなくなります。

 

              ―中略―

 けんかをしないでと、おかあさんはいつもいっているのですが、けんかのまえにそんな注意を思いだすひまなんてありません。

 しかし、組み合って格闘した相手の少女ミイアの口から「あくまの子!」という暴言が飛び出したとき、マディケンは、ミイアが「かわいそうに」なって、彼女を掴んでいた手を思わず緩めてしまいます。「あくま」などとののしれば、その当人が地獄へ落ちるからです。一瞬の相手の隙を、地面に押さえつけられていたミイアが逃すはずがありません。たちまちミイアは、マディケンの鼻をめがけて「げんこつを一発おみまい」するのでしたが……。

 感じやすさと真っ直ぐな逞しさを兼ね備えた女の子マディケンは、魅力的な女の子です。もともとは、自分の鼻の穴にエンドウ豆を押しこんで取り出せなくなったリサベット(お話冒頭のこの騒動もなかなかに愉快です)を連れて、医者へ行く途中だったのでしたし、先にけんかを始めたのもリサベットでした。その相手は、ミイアの妹のマティス。結局、妹同士の諍いが、それを看過できない姉たちを巻き込んだのでした。いいえ、もちろん、マディケンもミイアも率先して踊り込んだのですけれど。

 リサベットにはリサベットの、マディケンにはマディケンの、そして、詳細は語られないものの、けんか相手の姉妹ミイアとマティスにだって、それぞれが信じる世界があり、それらは、成長とともに静かに膨らんでいるのでしょう。リンドグレーンの作品では、新しいものに触れた時の子どもたちのわくわくした気持ちが、間断無く描かれます。彼らが、幼いからこそ無為に保持できる、思いやりや想像力という素朴なアビリティー。頭と心を健やかに働かせて、とにかく前を向こうとする幼い人たちを、危なげないその筆で作家は爽快に語ります。

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